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秋元雄史

東京藝術大学大学美術館 館長・教授

  • TOKYO

KAIKA 東京から広がる、アートの新しい楽しみ方

KAIKA 東京に展示する作品公募で審査員を務める、美術評論家の秋元雄史さんのインタビュー。お話は、 審査で重視したポイントから暮らしと芸術のつながり、そして日本の現代アートの現在地へと広がっていきます。

“楽屋裏の素顔のアート”を鑑賞できる場所

──KAIKA 東京は館内にアートストレージがあります。こんな空間の使い方をどう思いましたか?

面白いと思いましたよ。収蔵庫のアートを体験するというコンセプトがユニークですよね。アートにとっては、ギャラリーに展示されているのが“おすましの状態”で、倉庫にあるのは“楽屋裏の俳優状態”。KAIKA 東京では楽屋裏ならではの素の状態が出るし、楽屋裏でも成り立つアート作品の面白さを感じてもらえると思います。

──館内アート作品の審査は、どんな点に着目したのですか?

 作品のクオリティやアイデアはもちろんですが、宿泊者が館内を巡る楽しさを感じられるように、空間の雰囲気に変化を持たせることを意識しました。我々はそれを仕事にしているから現代アートと触れることにハードルの高さは感じないけれど、宿泊者にとってはそうではないかもしれない。願わくば、KAIKA 東京のような場が増えて、鑑賞者の暮らしにアートの感性を取り入れてもらえるといいなあ、と思いますね。

 

芸術は、もっと暮らしの一部であっていい

──現代アートと聞くと「難しそう」と身構えてしまいます。

今までの現代アートは、生活の中での用途がないので近寄りがたいところがあったかもしれないです。でも、芸術には人々の暮らしの中で精神的な支えとして存在してきた歴史もあるわけです。芸術はもっと暮らしの一部であっていいし、さりげないものであっていいと思うんですね。

──暮らしの一部と思いながらも、例えば1枚の絵が数百億で取引されるようなニュースを見ると、芸術は別世界の出来事のように感じます。

僕のいう芸術が日常化すればいいというのは、パブリックな場を形成する芸術という役割のことで、1人のアーティストが成功して歴史に残ることとは別なんです。近代美術では、この二つの側面が一緒になっているけれど、昔から芸術のある暮らしは存在しています。アルタミラ洞窟の壁画も縄文土器も、特定の作者がいるわけではない、でもそれは美しい。芸術や文化はある種の共同元素みたいなもので、社会を成り立たせるための目に見えない一種の価値基準なんです。

──日本は「日常的に文化にお金を使う」という行為が、まだまだ洗練されていないのかもしれません。

文化と経済活動は結びつきにくいもの、として捉えられがちなのではないでしょうか。経済とは「もっと地に足がついたもの」「もっと真面目にやらないといけないもの」と思いすぎているのかな? でも、日本という国の成熟度を考えれば経済的な指標だけで社会を測っていく開発型の発想はズレている感じがしますけれど。

──KAIKA 東京のようなアート鑑賞の場が増えれば、暮らしの中でもっと芸術とのつながりを感じられそうです。

日常的に人を癒したり、気持ちを高揚させたりするものとして、暮らしの中にアートがあるのはいいことですね。それに、持っているアート作品でその人の内面が伝わりやすくなるように、アートは「自分が何者なのか」を言葉以外で表現する手段でもあるんですよ。最近の若い世代は自分の価値観に合うファッションをうまく取り入れているのに、アートになると、まだその感覚が浸透していません。若い人たちが空間にまで意識を広げて、部屋に飾る絵を選ぶようになれば、「これが好き。これが私の世界」と自己表現できるようになるでしょう。アートを通じて、自分が大切にしている価値観が透けて見えるような暮らし方が、すぐそこまできている気がしますよ。

 

封じられた“面白さ”を、アートで取り戻す

──秋元さんの話を聞いて、芸術の捉え方は多様だし、もっと自由に考えていいのだなと感じました。

芸術の奇妙なところは、目に見えないものを相手にしていることです。人間の心に焦点を当てて、それを形にしようとしている。少し考えればそれは無理だとわかるんですが、芸術はその無理を人間が生まれてからずっとやり続けていますよね。

元来、人間にはそういう理解のできない、わけのわからない行動をとる一面があると思うんです。でも、今はそういう“わけのわからなさ”を封印して、つまらない社会になっていきつつある。私は少しでも面白い社会にしたくてアートを続けていますが、どうやら世の中は逆に動いているようです。それでも諦めずに続けるしかない。そうすると面白いことに、続けている途中で面白いアートに出会う。そういう出会いが、私を勇気づけてくれるんです。


秋元雄史

東京藝術大学大学美術館 館長・教授

1955年東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒業後、作家活動をしながらアートライターとして活動。1991年に福武書店(現・ベネッセコーポレーション)に入社し、直島のアートプロジェクトを担当。開館時の2004年より地中美術館館長/公益財団法人直島福武美術館 財団常務理事に就任、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターも兼務。2006年に財団を退職、2007年 金沢21世紀美術館 館長に就任。10年間務めたのち退職し、現在は東京藝術大学大学美術館 館長・教授、練馬区立美術館 館長、金沢21世紀美術館特任館長、国立台南芸術大学栄誉教授。

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